紙と糸。シンプルなその2つの素材で、柔らかく可愛らしい空間をつくるモビールを開発・製造・販売されているManu Mobiles(マニュモビールズ)・今井淳二郎さん。
切込みの入った紙から不要部分を抜く作業や、糊を塗って貼り合わせる作業などを内職として若者に渡してくださる中で、モビールを揺らす静かな風のように、優しく程よく、リンクサポートの若者に接してくださいます。
3年以上になるリンクサポートとのかかわりの中で、今井さんもさまざまなことを受け取ってくださっているとのこと。仕事を発注する側としての思いと、若者を応援したいという思いの葛藤を引き受けてくださり、改めてリンクサポートとして感謝の気持ちを強くしました。Webサイト【チルチンびと広場】で今井さんが連載中のコラム『続・紙と糸でつむぐ物語』の文章を、転載許可をいただき掲載します。
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「経済的自立の前にあるもの」
3年ほど前のある日、以前モビールの製作をお願いしていた福祉施設の社員の方から連絡がありました。別の施設へ転職をされたようで、そちらでも何か一緒に取り組みができないかという相談でした。そこは名古屋市が運営する複合施設で、様々な事情から生きづらさを抱える若者に向けて、就労支援や生活にまつわる相談、自由に使えるオープンスペースなどの提供を無償で行っています。お話を聞くと、施設を利用している若者に向けて、何か簡単な仕事をいただけないかということでした。就労支援の取り組みの一環で、就労に至る前段階として、こういった仕事も世の中にはあるんだよということを教えたいということでした。
モビール製作の一番簡単な作業は、機械がカットした紙の切り残した部分を手作業で抜くという作業です。もう一つ、糸巻きの部分の糸を手作業で巻くという仕事もあります。ただ、作業が単調な上に賃金も多く出せない部分なので、とても就労支援にはつながりません。最初はお断りしようと思ったのですが、よくよく話を聞くと、むしろそういった作業を紹介したいということでした。というのも、就労へ至る前の段階で留まってしまうことが多いようで、まずは簡単なことから始めて、徐々に仕事というもの自体に慣れることが重要なようなのです。
可愛らしいモビールのパーツに触れながらの作業は、確かに癒される部分もあるので、気楽に携われて仕事に対する抵抗を少なくできるかもしれません。施設を利用する若者にとって何かプラスになることであればと思い、引き受けることにしました。
最初の頃はなかなかうまくいきませんでした。作業自体は気に入っていただけるのですが、やはり様々な事情から続けることが困難になってくるのです。元々、家から出ることが困難な方や、DVやハラスメントを受けて人と接すること自体が苦手な人もいます。簡単な作業とはいえ、責任や時間的な束縛はあるため、そこにプレッシャーを感じたり、それによって心身に影響が出てしまうと、途中でやめざるを得なくなってしまうのです。
最初の頃は、僕自身が「(最終的には)経済的な自立につなげなければいけない」とどこかで思っていました。モビールの仕事は、そのためのステップという考えでいたのです。でも何人かと接しているうちに、むしろその考えこそが一番要らないものなのではないかと思えてきました。仕事自体は、本当に楽しんでやってくれていることが利用者さんからは伝わってきます。経済的に自立しているか否かだけを問うことにしてしまうと、それら仕事に対する「喜び」や「やりがい」など、その判定に関わらないことは見えてきません。利用者さんにとって一番辛いのは、まさにその「経済的な自立か、それ以外か」という一方的な区切りなのではないでしょうか。
単純にモビールの仕事を楽しんでくれる人がいて、そういった人に仕事をしてもらえた方がこちらも嬉しくて、それだけで良いのではないかと思いました。そう考えるようになってからは、とてもスムーズに仕事を続けられるようになりました。
最近では仕事のバリエーションも増えてきて、イベントで店頭に立ってもらったり、職人的な紙の貼り合わせも少しずつお願いできるようになりました。皆さん丁寧に仕事をしてくれるので本当に助かっていて、今ではモビールの製作に欠かせない存在です。施設の職員さんから、最初は外に出ることもできなかった人が、仕事をし始めてからは外に出られるようになったと聞いて、とても嬉しくなりました。
「仕事」は事に仕えると書きます。本来ある「事」に「仕える」喜びを、利用者さんに知ってもらえる機会になれば、それだけで十分です。経済的自立は、それらが満たされた後にゆっくりと築いていけば良いのではないかと思います。
(Webサイト【チルチンびと広場】で今井さんが連載中のコラム『続・紙と糸でつむぐ物語』より転載)
Manu Mobiles ホームページ https://www.manumobiles.com/